こころの健康コラム

おとなの発達障害のサポートについて

愛知県精神医療センター 看護師 村松 あい

 

1.はじめに

 私は愛知県精神医療センターで看護師をしています。これまで病棟看護師として勤務してきましたが、今年度から院内のデイケアを担当することとなり、成人の発達障害の方と主にプログラムを通じてお会いすることが増えました。そこで、新たにデイケアでの成人発達障害専門プログラムに関わるようになった立場から当院での取り組みや私自身が感じたことについて紹介させていただきたいと思います。

 発達障害とは、脳機能の発達に偏りがあり、その特性により日常生活に支障をきたす状態を指します。ここでいう特性とは発達障害の特徴のことで、相手の意図や気持ちが分からない、予定変更が苦手、ミスを繰り返す、落ち着きがないなど人によってさまざまです。自閉スペクトラム症(ASD)では対人関係・コミュニケーションの独特さやこだわりの強さ、注意欠如・多動症(ADHD)では不注意や落ち着きのなさなどが代表的な特性として知られているかと思います。大人の発達障害と言われる方々はこれらの特性が比較的軽微だったために目立ちにくかったり、周囲の配慮でカバーされて問題とならなかったりしたことなどから大人になるまで発達障害と気付かれずに生活を送ってきています。しかし、大人になるにつれ取り巻く環境が変化し、求められる水準が高くなっていく中で特性の影響によってうまく適応できなくなり、困難を抱えるようになった方々が日々当院へ受診してこられます。

 

2.当院の成人発達診療

 当院には成人発達部門があり、診断と治療を行っています。診断では確定診断を目的とした専門外来およびアセスメント入院、治療的関わりではデイケアでの専門プログラムを実施しています。

Ⅰ.診断

①確定診断のための外来

 18歳以上の方を対象に発達障害の評価・診断を行う外来です。診断には幼少期の様子も詳しく知る必要があるため、養育者にも一緒に来院していただき、医師・臨床心理士・作業療法士など多職種で生育歴を聴取します。心理検査の結果も参考にしながら後日結果をお伝えし、今後の方針を話し合うための面談を行って終了となります。

②確定診断のための入院(アセスメント入院)

 アセスメント入院では原則2泊3日の入院期間の間に診断に必要な問診や心理検査の実施、専門プログラムの見学を行っています。特性上、大勢の人と一緒に入浴ができない方や精神科受診が初めてで精神科病棟への入院に不安を抱いている方などのために、可能な限りトイレ・シャワー付きの個室を用意しており、利用された方からは安心して過ごせる空間としてご好評をいただいています。
 アセスメント入院を利用される方の中には、生活上のストレスからうつや不安など精神的不調(二次障害)をきたしている方もおられます。周囲が困っていても自分の仕事しかしない人や、相手の気持ちを想像できない上に思ったことは伝えないと気が済まない特性のため相手を不快にさせてしまい、職場内で孤立し、抑うつ・希死念慮が出現し、過量服薬に至ってしまうケースもあり、まさに二次障害に苦しんでいる方を目の当たりにしてきました。

Ⅱ.デイケアでの専門プログラム

 発達障害の特性自体は病的なものではなく、必ずしも治療の必要はありませんが、周囲の人達との感じ方や行動様式が違っていることで対人関係や学業・仕事で困難を抱えがちで多かれ少なかれ生きづらさを感じている人がほとんどです。
そんな生きづらさに対する治療的な関わりの一つとして、当院ではデイケアにおいて成人発達障害の専門プログラムを実施しています。特性や課題に合わせたたくさんのプログラムを行っています。(表1参照)。

表1 愛知県精神医療センターで実施している主なプログラム等

グループ

特徴

シニアパッケージ

社会経験がある人を対象としたASD専門プログラム

フレッシャーパッケージ

社会経験が乏しい人を対象としたASD専門プログラム

評価プログラム

グループ参加が可能かどうか、試行・評価するためのプログラム

ADDの会

注意障害の方向けの集団認知行動療法プログラム

ピアカウンセリング

希望の話題を自由に話す

ママの会

子どもの発達特性に悩む、自身もASDと診断されているお母さんの会

パートナーの会

ASDの当事者とそのパートナーで、互いの「取扱説明書」を作成

家族会

家族同士のピアカウンセリング

 

 現在私が主に関わっているのは、フレッシャーパッケージ・プログラムとパートナーの会です。それぞれのプログラムを担当し、参加者の様子を見る中で感じたことを書かせていただきます。提示した症例は個人の特定に繋がるような情報に関しては内容を一部改変しています。

①フレッシャーパッケージ・プログラム

 フレッシャーパッケージ・プログラムは結婚や就労などの社会経験が乏しい方を対象としたASDプログラムで、社会経験のある方向けのシニアパッケージ・プログラムと比較すると特性が強いために集団への適応困難が予想される場合や知的能力・言語理解において支障がありそうな方が比較的多く含まれます。
 このプログラムはテキストを用いて当事者同士での意見交換をして進められていきます。会話の始め方・続け方、感情コントロール、アサーション(非難や苦情への対処)、ストレスなど、各回でテーマが決まっており、それに沿って一般的な知識を学んだ上で、参加者同士での意見交換やロールプレイなどを行います。安心して発言してもらうため、プログラム内で話したことは外では話さないことや他人の意見を否定しないようにすることなど、参加する上でのルールを設け、プログラム開始時に毎回確認します。
 20代男性のAさん(ASD)はプログラム参加当初、「自分から話すのは苦手、人に話しかけるのはハードルが高い。」とコミュニケーションへの苦手意識がありましたが、回を重ねるごとに積極的な発言が増えていきました。同年代で、Aさん同様電子機器関連に詳しいBさんとは休憩時間に共通の話題を通じて交流するようになり、お互いの悩みについて相談し合う仲になりました。当事者同士で話すことで自分と似た悩みを持つ人がいると知ることができ、安心感が得られるとともに、特性に関連した困りごとへの対処法についてアイデアの広がりが得られるようです。
 また、これまで特性が影響して困ったことをそれぞれ議題に挙げ、意見交換を行うという回(ピアサポートと呼んでいます)で、Aさんは気になったことを調べ始めると際限なく調べてしまい睡眠時間が短くなったとしても止められないという困りごとを挙げました。すると同じ回に参加した20代女性Cさんから、調べたいことをメモして後日時間がある時に調べる、検索機能がある電子機器の電源を寝る前には切るなどの案を提案されます。Aさんにとっては調べずに残しておくことも気になり続けて眠れないため、結局この回では解決策の結論は出ませんでしたが、Aさんはプログラムの最後に「同じ診断でも自分とは全く違う考えの人もいるんですね。自分に合ったやり方を見つけられるかが大切かなと思いました。時には妥協していくことも必要なのかもしれない。」と話していました。同じ診断名であっても特性の強さや現れ方に違いがあることを知り、様々な考え方に触れることで自分の感じ方が絶対ではないと実感し、参加者の考えが柔軟になる効果もありそうです。

②パートナーの会

 パートナーの会は発達障害をもつ当事者とそのパートナーが一緒に参加するプログラムで、夫婦が未来に向かってしあわせな関係を築いていくためのサポートを目的としたプログラムです。ここで言うしあわせな関係とは必ずしも関係を修復し良好な関係になるという意味ではなく、お互いが納得する夫婦の理想の形のことを指します。
 夫婦だけでは話題を持ち掛けづらい、話し合いを試みてもケンカになってしまうという夫婦も多く、冷静に話し合うことが難しいテーマもこのプログラム内では取り扱われます。スタッフや他の参加者がいるプログラム内では安全が確保された場としてご夫婦で抱えている困難に向き合っていただきます。ただし、口頭のやりとりだけでは認識のズレや言った言わないの論争が起こりやすいことを考慮し、話し合ったことを視覚化しながら共通認識を図るようにしています。また、どちらか一方の意見に偏って相手に意見が反映されていないと新たな不満に発展してしまうため、資料作りは共同で行うというルールも設けています。
 このプログラムでは夫婦の取扱説明書(トリセツ)の作成を達成課題にしています。病棟勤務時代、当事者本人の発達特性を理解し、特性に合わせた関わりが必要であることは学んでいました。そのため当事者のトリセツを作るというのはイメージしやすいのですが、パートナーのトリセツというのは新しい視点に思えて新鮮に感じました。医療者として当事者と関わっているとなおさら、発達障害当事者の行動変容を図ることを思い描きがちで、自分自身のことを当事者に知ってもらうという発想はありませんでした。しかし、パートナーとして当事者と生活を共にする人との関係性の中ではそうもいきません。実際の生活の場はそれぞれの考えや感じ方に基づいて形作られていき、それらは必ずしも同じとは限りません。相手の思いや状況を読み取ることが苦手な特性を持っていることが多い当事者にとって、その違いを想像することは非常に困難です。そういった特性を持つ当事者が実際に生活している場面のイメージが足りなかったために、新たにプログラムを担当するようになった私にとってパートナーのトリセツを新鮮に感じられたのだと思います。
 パートナーが当事者を理解するだけでなく、パートナーがどんな性格でどんな考えを持っている人なのかを当事者が理解できるよう支援することが、夫婦が抱えている困難を軽減して前に進んでいくために重要だと気づかされます。

 ここで印象に残った事例をご紹介します。

 40代のご夫婦であるDさん(夫、会社員、ADHD、ASD)、Eさん(妻、主婦、精神科受診歴なし)は、Dさんの報連相(報告・連絡・相談)不足が原因でケンカが絶えません。Dさんは前触れもなく突然外出しないかと言い出したり、物事の途中経過を報告することなく結果だけを伝えたりするため、Eさんは理解できません。Eさんは事前に知らせてほしい、経緯も含めて説明してほしいと繰り返し注意しますが、一向に改善されません。
 話し合いを進めていくとDさんは自分自身は困らないため、報連相の必要性を感じていないということが分かりました。家事や献立をスケジュール立てて進めているEさんとしては思いつきの行動に振り回され、Dさんのどこか他人事のような反応に怒り心頭です。報連相ができるような対処を夫婦で考えますが、Dさんは特性上、長期的な計画や具体的な手段を考えるのが苦手で「連絡するように意識する」など抽象的な対処法になってしまいます。
 そんな中でもスタッフのサポートを受けながら話し合いを進めていく中でDさんから「家族で外出したい時は前日までに話す」「妻が何を知りたいか質問する」といった具体的な方法の提案が出るようになりました。Eさんからは「この方法なら私も協力できそう。」と前向きなコメントがあり、Dさんからも「どう対処していいか分からずモヤモヤしていたのが少しスッキリしました。」という発言が聞かれました。この時点で抱えている問題が完全に解決したわけではないですし、その方法が上手くいくかどうかも実践してみないと分かりませんが、話し合いを終えたお二人は話し合い中より幾分か和らいだ表情をされていました。

 このケースのように、参加されるご夫婦が抱える課題はコミュニケーション不良が原因であることがほとんどです。夫婦の話を聞く中でお互いに「相手はこう思っているのだろう、こういう考えに違いない」といった発言がよく聞かれますが、相手が実際に考えていることは違います。夫婦でも主観が異なるため、物事への認識にもズレが生じます。第三者が同席して客観的な視点からお互いの気持ちが適切に伝わるようサポートする場で、お互いの考えや認識にズレが多くあることを確認していくことが相互理解のために重要なのだと感じます。

 夫婦の話し合いの場に入る際、私たちスタッフは中立な立場でいようと心掛けています。しかし、意識はしていてもそれぞれのお話を聞く中で参加者の激しい怒りや悲しみに触れるとこちらの感情も揺さぶられ、その強い感情に寄りすぎてしまうことがあり、対応には細心の注意を払っています。こういった難しさもありながらも、参加者の苦しみを一緒に体験し、多職種で情報共有することでご夫婦の状況を整理し支援者として気持ちを整えつつ乗り切っています。

 

3.おわりに

 成人発達障害のプログラムに関わるようになり、当事者の現実的な生きづらさや家族が抱える悩みに直接触れる機会が増えたことで、病棟勤務時代よりも発達障害に関する支援ニーズの高さを体感しました。一方で専門プログラムのような支援が行われていることについて、当事者や家族だけでなく、院内外の医療者にもどれだけ浸透しているか疑問が生じました。私自身同じ病院内で働いていてもこれまで専門プログラムの内容を詳しく知りませんでしたが、プログラムを通じて生の声を聴くことで発達障害をもつ方々やその家族が生活上感じていることや困りごとについて具体的なイメージが抱けるようになりました。もし病棟勤務時代にこの経験があったなら入院になった背景や退院後の生活などがより現実的にイメージでき、必要な支援への提案の幅も広がっていたのではないかと感じています。現時点では他部署との連携はいまだ十分とは言い難く、周知活動は大きな課題の一つだと感じています。
 また、専門プログラムのニーズが高い故に待機者が多く、参加を希望するすべての人が希望するタイミングで受けられていないという現状や言語理解の能力が十分でない人や集団への参加自体が困難な人はプログラムの対象外となっている実状があり、支援を提供できる対象が十分広いと言えないことも大きな課題の一つです。

 以上のような課題を踏まえ、まずは自分自身が学会参加等を通じ発達障害支援についての理解やスキルを高めることが必要だと考えます。そして培ったスキルを活かし、言語理解の十分でない方や集団への参加が困難な方に向けた支援の充実を目指していきたいです。複雑なコミュニケーションをあまり必要としない、レクリエーション性の高い活動を中心としたプログラムであれば言語能力の差を強く意識せず集団の場になれてもらう機会として活用できるのではないかと考えます。
 また、専門プログラムの場は発達障害をもつ方々が自分自身と自分の特性について振り返り、見つめ直す機会でもあります。その場を経た参加者の方々がこの先何をしていきたいか、自分にはどんな支援が必要かということに繋げられてこそプログラムに参加した意味がより深まるのではないかと考えます。そのためにはデイケア内だけで完結せず、精神保健福祉士と協働して院内のあらゆる部署や地域の支援機関との繋がりづくりに力を入れていきたいです。そして、このコラムが私たちの取り組みについて知ってもらう第一歩になれていれば嬉しいです。

 今後も支援を必要とする発達障害をもつ方やそのご家族のお力になれるよう微力ながら尽力していきたいと思います。

 

 

 

 

だれも孤立しない社会のために

安城市こども若者総合相談センター あんさぽ

センター長 朝倉 美佳 詳細はこちら

ヤングケアラーの講演会を通じて感じたこと

地域活動支援センターじょうしん 永田 仁

 

詳細はこちら

ヤングケアラーと精神保健〜保健師活動から〜

愛知県保健師 夏目恵子

 

詳細はこちら

「コロナ禍での精神障害者のリカバリーに向けた活動について感じたこと」

一般社団法人しん

代表理事 本間貴宣

〇はじめに

詳細はこちら

支援の狭間に手を差し伸ばしたい―「NPO法人ぷらっとほーむ」の紹介

詳細はこちら

「コロナ禍の生活困窮と精神保健」

 

名古屋市仕事・暮らし自立サポートセンター副センター長

精神保健福祉士 石上里美

 私は、生活困窮者支援の相談員の仕事をしている。この仕事に就く前は依存症を多く扱うクリニックでPSWの仕事をしていた(現在も週1パート勤務をしている)。生活困窮者自立支援制度は、2008年のリーマンショックをきっかけに、生活保護に至る前の早い段階で困窮者を支援することが重視されるようになり、2015年度から始まった「第2のセーフティネット」である。相談の新規相談件数は2015年度以降、全国で22万~25万件程度であったが、コロナ禍が始まった2020年度は80万件近くなり、前年度の3.2倍になった。家賃を払えず住居を失う恐れのある人に対し家賃の一部を支給する住居確保給付金は、コロナ禍前の2019年度は約4千件だったが、2020年度は約13万5千件と、34倍に跳ね上がった。コロナの影響による離職や廃業、休業などにより生活困窮に陥った対象の多くは、飲食店や対面を避けられない仕事に従事している人であった。

 飲食店や対人サービスなどの仕事の多くは、女性が多く働く職種であることから、コロナ禍では「女性の貧困」が注目を浴びた。生活困窮の現場にいると、中でも母子家庭の貧困が目立った。各世帯構成の中で、貧困率が最も高いのは母子家庭であり、続いて単身女性世帯である。このことは何を指すかというと、過去も現在も非正規雇用に従事するのは女性の方が多いことの結果ではないだろうか。今回打撃を受けた職種は対人を避けられない職種であり、女性が雇用されやすい職種である。もともと貧困率の高い女性の世帯が、ますます、コロナ禍で大打撃を受けたのである。

 貧困率が最も高い世帯構成である母子家庭では、ひとり親である母親の約80%が就労しており、うち生活保護を受給している世帯は約1割ほどである。彼女らの多くはダブルワークや、時にはトリプルワークなどをして必死に家計を支えているのが現状である。母子家庭の中でも、DVを受けた家庭は更に深刻な状況である。離婚が成立していないので児童扶養手当なども入らない。DVの夫と離れるために引っ越しをしなくてはならず、子どもはいきなり転校を余儀なくされる。DV被害家庭の子どもは両親の争いを目撃し(目前DV)、心に傷がついているなかで、学校の転校という更なる不安定な状況に追い込まれ、心を病むことが多い。子どもが不安定になると不登校などの状態も出現し、仕事に行きたくても行けない母親は余計に困窮し生活もままならなくなり、その母親もまた精神を病む。従来の母子家庭やDV被害家庭がこのような状況であっただけでも想像を絶する状況であるのに、このコロナ禍が、更なる過酷な状況をDV被害家庭に作り出したのは言うまでもない。このままでは母親も子どもも共倒れになると心配して、私たちは困窮の相談員として生活保護を受給するように当然勧めるも、多くの母子家庭やDV被害家庭は生活保護を受給する決断をしない。なぜこれほどまでに生活が困窮し、親子ともども共倒れ寸前なのに生活保護を受給しないのか、その理由はいくつかある。一番多い理由が「車を手放せない」ということである。子どもが小さく、車は生活必需品であり手放すことができない。しかし、名古屋をはじめ多くの都市では交通網が発達しているために、生活保護では車はぜいたく品とされており、生活保護を受給すると一部の例外を除いては車を手放すように指導される。それを避けるため、生活保護基準以下の生活でも保護を受けず、必死で働いているのが現状である。

 また、母子家庭ではないが子育て中の母親たちも経済的な打撃と精神的な打撃を受けてきた。学校や保育園がコロナ禍で休校・休園などを余儀なくされ、働く母親たちは、仕事を休まざる得ない状況になった。対人サービスの仕事以外の職種でも、子どもたちの休校や休園により、職場に無理を言って仕事を度々休まざる得ない状況に陥ってしまったのである。また、自宅で子育てをしている母親も、夫がリモートワークをすることで、昼食の用意などの家事が増えることで家事と子育ての負担が増加した。また、夫婦の時間が増えたことで家族の絆が深まった家庭もある一方で、逆にDVや家庭不和の問題が深刻化した家庭も少なくはない。これらは、コロナ自粛で家庭の中でしか居場所がなく、他人と触れ合う機会が乏しくなり、家庭の中の風通しが急激に悪くなったことの現れであろう。コロナ禍では女性の自殺率が15%増加した。政府は、自殺対策の指針となる新たな「自殺総合対策大綱」を22年10月に閣議決定した。コロナ禍で女性や小中高校生の自殺者が増えている状況に「非常事態は続いている」と明記し、女性への対策を新たに「重点施策」に加えた。

 コロナ禍における自粛で自宅に引きこもる生活の悪影響は、うつやDV、家庭内不和、自殺だけではない。2022年6月16日のNHKクローズアップ現代では、「あなたは大丈夫?コロナ禍のアルコール依存」を放映したが、国立久里浜医療センターでは、コロナ禍でのアルコール相談は前年の1.5倍となったと報道していた。また、私が週一回勤務するクリニックでは、子どものゲーム依存の相談が激増した。休校や自粛で友達と対面して遊べない子ども達がゲームを通して交流するため、昼夜逆転の生活になった、勉強が手につかない、親が決めたゲーム時間のルールを守れなくなったといった相談内容だった。中にはゲームを咎める両親に暴力を振るう子どもたちもいた。親が休日となる土曜日のクリニック外来は、ゲーム依存の親子で予約が埋まる状況であった。

 今回の私のテーマは「コロナ禍の生活困窮と精神保健」であるが、ここで「コロナ禍」という視点を外し、「生活困窮と精神保健」と、昨今の日本における「無差別殺傷事件」との関連を、この紙面を活用して語ってみたい。生活困窮者自立支援制度における“生活困窮”とは、「経済的な貧困」と「社会的な孤立」を指す。「無差別殺傷事件」というとまず筆者が思い起こすのは、2008年に起きた東京の“秋葉原事件”である。この事件が起きた時、日本の社会に衝撃が走った。秋葉原事件の加害者は、進学校での成績低下で人生が終わったと思い、派遣労働者として孤立を深め、ネットにも居場所を失った背景があったと報道された。その時の筆者の印象は、一度社会のレールを外れると再びレールの上には戻れない社会が今の日本なのだろうかということであった。派遣労働という働き方が、更に彼の孤立を深めたかもしれない。この秋葉原事件は、まさに「経済的な貧困」と「社会的な孤立」の両方がそろった事件ではないだろうか。無差別殺傷事件を起こした人物の境遇や動機について、共通点を探った研究報告がある。2000~2010年に判決が確定した52人を対象に、犯行実態や背景をまとめたその研究によると、無差別殺傷事件を起こした52人のうち、犯行時の月収が20万を超えていたのは3人しかおらず、40人(77%)が無収入、もしくは月収10万以下であった。同居する配偶者や異性の交際相手がいたのは2人だけで、犯行時に友人がいたのも10人(19%)に留まる。また、犯行時に「自殺」を試みていたケースは約44%に上り、52件全てが単独犯であったという共通点も見られた(法務総合研究所「無差別殺傷事件に関する研究」より)。もうひとつ思い起こされるのは、2021年に起こった大阪ビル放火事件であるが、加害者は生活困窮者であった。報道によると、生活保護を受給しようと相談したが、持ち家があり生活保護を受給できないと言われた経緯があったという。その後、加害者は途方にくれ、自ら抱いていた自殺願望を無差別な大量殺人への執着に変容させていった。生活保護では、正しくは、持ち家があっても保護申請は可能である。ただし、資産価値がある場合は売却しなければならないということである。そのような誤解が解けぬまま、加害者が自暴自棄になり事件を起こしてしまったと思われるが、孤立さえしていなければ、誤解を解き生活保護受給に至ったか、持ち家を売却してしばらく生活費に充てることができたのかもしれない。そういった助言やアドバイスをし、誤解を解く場所や人間関係があれば、あれほどの悲惨な事件を起こし、多くの何の罪もない人の命を奪うことはなかったのかもしれないと思うと無念でならない。

 以上のことから、「生活困窮と精神保健」は、密接な関係があるのではないだろうかと筆者は考える。それは、生活困窮者自立支援制度の“生活困窮”が「経済的な貧困」と「社会的な孤立」を指すことに関わっていく。「経済的な貧困」と「社会的な孤立」にある人すべてが精神保健に関連するわけではない。しかし、過酷な状況の中で孤立することで精神を病むのが、逆に言えば人間の、ある意味本来の姿ではないかとも筆者は思う。

精神科訪問看護の役割と取り組み 

 

株式会社 花笑み

はる訪問看護リハビリステーション/はる訪問看護リハビリステーション弥富

 会社代表・看護師 松田真一

 

ただいま、7月後半、新型コロナ感染症の第7波の真っ最中です。

感染者が多くなってしまいましたので、患者さんや訪問スタッフ、またそのご家族などに感染された方が増えており、どこから手を付けてよいのか・・という状況です。

精神疾患の方もこのコロナ禍で不安を持たれる方もかなり多く、対応に苦慮している状況です。この文章が皆さまの目に触れるころには落ち着いていることを切に願います。

さて、わたしどもの会社は、県内2ヶ所で運営しています。全体スタッフは40数名程度の会社です。看護師をはじめ、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、そして後方から強力に支えてくれる事務スタッフさんが在籍しています。2ヶ所の事業所で患者さんは250名前後、精神疾患の患者さんは100名前後となっています。

今回、このような機会を頂戴しましたが、「精神科訪問看護というものは何をするものなのか、何ができるのか」というご質問を一般の方、患者さん、相談員さん、または精神科訪問看護をやっていない同業者からもよく受けますので、現場目線で、できるだけわかりやすくお伝えできればと思いました。少しでもわかりやすくお伝えするために、簡単ではありますが、現場でのケースや私自身の経験も織り交ぜてお伝え出来ればと思います。

精神科訪問看護とは

精神疾患の方や、こころにサポートを必要とされている方々に、看護師などがご自宅や施設に訪問して、健康状態の観察はもちろんのこと、ご本人のこころの状態に合わせてご相談をお受けしたり、対人関係、社会資源活用、薬物療法のサポート、作業療法、リハビリなど、総合的な援助をさせて頂くサービスになります。

流れとしては、相談を受けたあと、医師の指示書類をいただき、その内容に基づいてサービスを提供していきます。ただ、指示内容はざっくりとしたものになりますので、具体的なケア内容は私たちと利用者さんで決めていきます。

具体的な内容について

全国的には以下のように、医師からの大きな指示の枠組みが決まっています。

詳細はこちら

ゲートキーパー研修動画の監修に参加して

              愛知県臨床心理士会 副会長

坪井裕子(名古屋市立大学)

 2020年初頭からCovid-19 の感染が拡大し,感染予防のための行動制限やマスク生活等の不自由な暮らしが2年を越えてきています。現在,第7波に入って感染が再拡大しており,まだまだ先の見えない不安が世の中全体を被っているようです。コロナ禍で,芸能人などの自死のニュースが相次ぎ,心を痛めた方も多いことでしょう。厚生労働省(2022)による我が国の自殺者数の推移を見ると,平成15(2003)年の34,427人をピークに,平成21(2009)年度からは徐々にその数は減少傾向にありました。コロナ禍前の令和元(2019)年度の自殺者数は20,169人でしたが,コロナ禍となった令和2(2020)年度は21,081人と増加に転じました。令和3(2021)年度は21,007人で,前年度より少ないもののコロナ禍前と比べると増えているといえます。男女別にみると,女性は2年連続の増加となっています。男性の自殺者数は減少傾向にあるものの,女性の約2倍となっています。このような状況の中,自殺防止のためのさまざまな対策が講じられています。そのうちの一つとして,「ゲートキーパー」という言葉を耳にしたことがある方も多いと思います。

詳細はこちら

― 安城市適応指導教室の現状と課題 ―  

  詳細はこちら

愛知県精神保健福祉協会
〒460-0001
愛知県名古屋市中区三の丸3-2-1
愛知県東大手庁舎
愛知県精神保健福祉センター内

電話
(052)962-5377(内線550)