ヤングケアラーの講演会を通じて感じたこと
地域活動支援センターじょうしん 永田 仁
私は、名古屋市西区の 地域活動支援センターじょうしん(精神障害者地域活動支援)でピアスタッフとして働いています。名古屋市西区では、2022年度の精神障害普及啓発の取り組みとして ヤングケアラーの経験を持つ元当事者を講師にお招きして講演会を実施しました。私も、地域活動支援センターのスタッフの立場で 1年間準備に携わり、講演会にも参加しました。今回は、その時に感じたことなど、雑記のような形で皆様に紹介させていただきます。
まずは、講演会当日の講師の話です。
講師から、「ヤングケアラーの気持ちとして、大人を信頼できない」との話がありました。私も、この点はなんとなく想像できましたが、その理由を聞いてハッとさせられました。「大人は当事者の気持ちに関係なく勝手に支援に繋ぐから」とのことでした。私も、自分が参加する会議で 対応が難しいケースを話し合うときは、自分が関わってきた経験を中心に照らし合わせながら どのような支援が受けられるか、どの支援者なら親身になってくれそうか などと考えを巡らせることが多かったです。私は、この話を聞いて、私の考えていた関わり、その主体は常に当事者本人であったのだろうか、と 自分に問い直しました。
同じ文脈で言えば、「ヤングケアラーを支援したいと思うときに 相談する相手が支援者であること、それが当たり前な感覚はよくない」との話もありました。講師は、講演の中で ヤングケアラーが孤立しやすい環境として「相談したことを親に知られてはいけない気持ち」、「相談したことで家族を悪者にしたくない気持ち」があること、そのために、「目の前の相手を喜ばせようとして 結果的に支援者の意に沿うような話をしてしまう」「隠すのが上手くなる」ことも挙げていました。私は、この話を聞いて、当事者が安心して話せる環境を優先するなら 支援者以外の選択肢も意識しなければならない、と改めて気付かされました。
講師は、これらの話をまとめる形で「助けてあげたい気持ちが強いと、当事者本人の意思を無視しがちになる、つまり『善意が暴力になる』こともあるので、忘れないでほしい」と話していました。ヤングケアラーは他の子供に比べて2倍以上精神疾患を発症しやすいとのこと、その背景にある問題のいくつかを 体験談を交えて聞くことができて、私も自分の関わり方を見つめ直す機会となりました。
他にも、「当事者本人のための支援となるように、長期的な視野を意識した関係作りをすること」「本人の声、意見が反映された支援が行われること」「本人が不調ならアドボケートが意見を言うこと」「よくないと思うなら叱れることも大事」など、私もいずれも当たり前と思いながらも改めて再確認できました。
もう一つ、私が講演後に感じたことを書かせていただきます。
今回も講演の後で質疑応答の時間が設けられましたが、私はその場で どんなことを質問すればいいか すぐに思い付きませんでした。ここまで書いてきた上記の内容は、私が後から思い返してまとめた気づきなどです。すぐに質問できなかったことについて、私は、普段 私が関わるのは精神の方がほとんどなので 私にとっても他人事のようだったのでは、と考えました。実は、私は 講演会の参加者数などの面で周りの関心が少し物足りないのでは と感じていました。講演を終えて、関心が足りないのは まさに自分のことだったと気付き、自分を恥ずかしく思いました。今回の講演にわざわざご参加いただいた講師のためにも、私は 普段関わりの薄かった分野にも積極的に目を向け、学び、関心を抱き続けたい、そう思っています。
地域における社会的な課題には、複数の分野・担当にまたがるものが多いように感じられます。そこには、困っているのに声を上げられない人、声を上げてもすぐに対応できずに行き詰まってしまう人も まだまだ多いのではないでしょうか。ソーシャルワーカーを始めとした支援者の皆様には、このような方々の代弁者として、地域課題を取り組みやすくできるように配慮したり、解決できるような制度の設計を考えていただいて、より多くの当事者に手を差し伸べていただければ と思います。
最後に、今回講師を務めた方は、学生の時に同じような体験をした仲間と出会い、自助グループでのピアサポートを経て、現在はヤングケアラーを支援するために起業した とうかがいました。起業すると聞いて 私には難しいとも感じましたが、微力ながら、私も 西区のピアサポーターの仲間と一緒になって、地域で精神のピアサポート活動、地域の支え合いを盛り上げて行きたいと思っています。