R5 こころの健康コラム(その3)を掲載しました

ヤングケアラーと精神保健〜保健師活動から〜

愛知県保健師 夏目恵子

 

 「ヤングケアラー」は、比較的最近になって耳にするようになった言葉ですが、保健所保健師は従来から精神疾患や難病等で療養される方の相談支援を業務としており、「ヤングケアラー」の可能性のあるお子さん(以下、お子さんという)と関わる機会がこれまでにもありました。

 療養されている方が親御さんの場合は、療養生活や福祉サービス利用等に加えて、お子さんの保育園のことや、小学校の夏休みの宿題のこと、授業参観のことやお子さんとの接し方など、子育てに関する相談を受けることがありました。また、小児期の兄弟姉妹が療養されている場合には、兄弟姉妹の関わりについて話したり、時には”つどい”の場を保健所で設け、専門知識を持つ先生方にアドバイスをいただいたり、同じような立場の方々と話をしていただくなど、様々な関わりをしてきています。

 しかし、私たちが家庭訪問等をさせていただく時間帯に、お子さんに会えることは少ないのが現状です。お子さんについて気になることがある場合には、園や学校関係者の方々と連絡をとりますが、そうでなければ夏休みや冬休みなどに会えれば…といった状況です。療養者本人が支援の主体である家族支援の場合、生活基盤が整うようにといった福祉サービスに繋ぐ支援が主流であり、お子さんの繊細な心内に触れるまでの支援は少なかったように思います。

 愛知県が2021年度に実施した「愛知県ヤングケアラー実態調査報告書」を見ると、“家族の世話をしているお子さんは平均するとクラスに3~6人”で、“家族の世話をしているお子さんの約4分の1が「やりたいけどできていないことがある」”と回答しています。また、インタビュー調査の結果では、「自分が家族をケアするのは当たり前のことと思っていた」「友人と自分の生活が異なることに対し、劣等感を感じていた」「親のために福祉サービスの利用を考えるのが大変だった」「希望する大学への入学をあきらめた」等の声が寄せられています。場合によっては、意図せずに、無自覚に逆境体験の境遇に置かれることもあるかもしれません。

 国では調査研究がすすめられ、こども家庭庁ができ、『多機関・多職種連携によるヤングケアラー支援マニュアル』が作成されました。また、新たな介護保険制度の基本方針にも盛り込まれ、ヤングケアラーの支援が本格化してきています。愛知県では「あいち子ども若者育成計画2023-2027」にヤングケアラーの支援について盛り込まれました。また、「第4期愛知県自殺対策推進計画」の中では、子どもの自己肯定感を育む取組の推進や居場所づくりの必要性について取り上げられています。

 特に成長発達の途上にあるお子さんについては、丁寧に関わり、時間を共有し、寄り添うことが必要と感じます。ただ、支援が必要な場合と必要でない場合もあるかと思います。子どもの頃の体験を強みとして成長される場合もありますので潜在的なニーズを見極める必要があります。「支援」とひとことで言っても、お子さんたちは非常に繊細な心を持っていますので、支援者の軸で考える“よかれ”の支援ではなく、お子さんの気持ちに寄り添いながら、お子さんの将来や家族の将来も考えながら、お子さんにとって必要な支援につなげることができたらと思います。

 そのために支援者として、福祉制度や社会資源についてよく知り、関係機関と連携するとともに、様々な精神保健分野の知識やスキルを身に付けておくことにも心掛けたいと思います。必要な知識については、例えば、困っている目の前のことを一緒に対処しながらお子さんの心に寄り添うことについては、サイコロジカルファーストエイドが参考になります。また、お子さんの気持ちを受け止める場合に語られることを大切にすることについてはナラティブアプローチが参考になります。その他、お子さんの状態を理解するために、より専門的な知識が参考になると考えます。

 私たち保健師は支援のつなぎ役として、関わりのある療養者の家族に更に目を向け、特に子どもさんへの丁寧なこころ配りを忘れてはならないと改めて感じています。

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