R2 こころの健康コラム(その1)を掲載しました

コロナウイルスが高校生に与えた影響

                  豊川高校 養護教諭・臨床心理士 長谷川 千里

 

私は、私立高校で養護教諭として30数年勤務しています。それだけ勤務年数がありながら、今回の新型コロナウイルス感染症のような状況に出会ったことがありません。対応も方針も手探り状態ですすめなければならず、またいつ終息するのかが不明でゴールの見えないない状況は、生徒も保護者も教職員もかなりのストレスを抱えやすい状況にあると感じています。

3月2日に初めて政府からの要請で一斉休校となった際には「春休みが少し伸びたかな?」くらいの感覚で、さほど大きな影響があるとは感じられませんでした。ところが4月になって数日後、再び休校措置がとられ、そこから約2ヶ月もの長い休校となってしまい、これまで経験したことのない生活様式に、生徒のみならず教職員も戸惑いや不安が大きかったのではないかと思われます。

本校では5月連休よりZoomによるWeb授業が開始され、担任は毎朝Webで生徒たちの出席確認を行うこととなりました。その中で、数名の生徒から「進路はどうなっていくのか(3年生)」や「学校生活に馴染めるのか(1年生)」といった不安を、担任へ訴える声が寄せられるようになりました。そこで、まず担任がスクールカウンセラーに相談し、アドバイスを得られるようにしました。その結果、担任が落ち着いて生徒に対応することができるようになり、生徒からの不安の声は治まっていきました。その時、スクールカウンセラーは生徒の心理的状態の見立ても行い、カウンセラーと直接面接の必要があると判断した場合、本人とカウンセラーが直接Zoomで面談する体制も整えましたが、そこまでに至るケースはありませんでした。

しかし、長引く休校によって、これまで学校で定期的にスクールカウンセラーとのカウンセリングを受けていた生徒たちから、「面接を再開して欲しい」との希望が出てきました。このためZoomによるカウンセリングを行ったところ、「家族にカウンセリングを受けていることを知られたくない」「話し声(内容)を家族に聞かれたくない」「自分が言ったことをカウンセラーに本当に理解してもらえているのか不安に感じる」という理由で中断するケースが相次ぎました。日頃学校で行われている対面式のカウンセリングの役割は、単純にWebの機能で補えるものでもなく、「場の設定」や「生身のカウンセラーとの対話」が心の交流にとって重要なものなのだと痛感させられました。

一方、長期の休校はマイナス面だけでなく、環境にゆっくり慣れる時間が保証され、プラスに働く生徒もありました。先ほど記した「環境に馴染めるか心配」と担任に訴え出た1年生の生徒は、その後担任と何度かWeb上でやり取りを繰り返していくうちに不安が治まっていったようで、学校が再開されても順調に登校しています。

また、通常の登校スタイルが始まってから、新たに問題を抱える生徒たちが出てきました。Web授業に参加することや与えられた課題をこなすことには取り組めるのですが、元々コミュニケーション力が弱く、集団生活に馴染めないと感じていた生徒の中には、昼休みを過ごすことや教室を移動すること、授業で指名されること、ペアワークを行うことなど、誰かと何かを共有しながら過ごさなければならない行動に対して苦痛や不安を感じ、登校意欲が薄れてしまうケースも見受けられました。これまで学校は当たり前に来るところだったのが、コロナ渦で一転し「Webでも教育が受けられるのではないか、その方が自分に合っているのではないか」と悩み、学校が再開すると教室に行けず、とりあえず保健室へ登校してくるのです。そんな生徒たちと養護教諭として向き合っていく場面もいくつかありました。

とはいえ、大半の生徒は学校が再開して生徒同士や教職員との交流を深め、時には笑い、時には泣きながら過ごしています。延期に次ぐ延期でやっと実施可能となった健康診断では、必死になってソーシャルディスタンスを意識した計画を立てたものの、くっついておしゃべりを楽しむ生徒を注意すれば「密よ!密!」と嬉しそうに距離をとりお互い笑いあっています。そんな日常よくある高校生の姿に、出口の見えない現在の状況への不安を一瞬忘れさせてもらいながら過ごす日々です。

 

2020.7.27

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