精神科訪問看護の役割と取り組み
株式会社 花笑み
はる訪問看護リハビリステーション/はる訪問看護リハビリステーション弥富
会社代表・看護師 松田真一
ただいま、7月後半、新型コロナ感染症の第7波の真っ最中です。
感染者が多くなってしまいましたので、患者さんや訪問スタッフ、またそのご家族などに感染された方が増えており、どこから手を付けてよいのか・・という状況です。
精神疾患の方もこのコロナ禍で不安を持たれる方もかなり多く、対応に苦慮している状況です。この文章が皆さまの目に触れるころには落ち着いていることを切に願います。
さて、わたしどもの会社は、県内2ヶ所で運営しています。全体スタッフは40数名程度の会社です。看護師をはじめ、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、そして後方から強力に支えてくれる事務スタッフさんが在籍しています。2ヶ所の事業所で患者さんは250名前後、精神疾患の患者さんは100名前後となっています。
今回、このような機会を頂戴しましたが、「精神科訪問看護というものは何をするものなのか、何ができるのか」というご質問を一般の方、患者さん、相談員さん、または精神科訪問看護をやっていない同業者からもよく受けますので、現場目線で、できるだけわかりやすくお伝えできればと思いました。少しでもわかりやすくお伝えするために、簡単ではありますが、現場でのケースや私自身の経験も織り交ぜてお伝え出来ればと思います。
精神科訪問看護とは
精神疾患の方や、こころにサポートを必要とされている方々に、看護師などがご自宅や施設に訪問して、健康状態の観察はもちろんのこと、ご本人のこころの状態に合わせてご相談をお受けしたり、対人関係、社会資源活用、薬物療法のサポート、作業療法、リハビリなど、総合的な援助をさせて頂くサービスになります。
流れとしては、相談を受けたあと、医師の指示書類をいただき、その内容に基づいてサービスを提供していきます。ただ、指示内容はざっくりとしたものになりますので、具体的なケア内容は私たちと利用者さんで決めていきます。
具体的な内容について
全国的には以下のように、医師からの大きな指示の枠組みが決まっています。
① 生活リズムの確立
② 家事能力、社会技能等の獲得
③ 対人関係の改善(家族含む)
④ 社会資源活用の支援
⑤ 薬物療法継続への援助
⑥ 身体合併症の発症・悪化の防止
⑦ その他
以下、これら大きな指示内容について、具体的なケースも例に出しながらお伝えしていきます。
◆生活リズムの確立
精神科訪問看護で伺う方々は、多くの方が抑うつ状態であることを経験します。具体的な問題としては【朝に起きられない】【服が着替えられない】【シャワーやお風呂に入れない】などに苦しんでいる方が多くみえます。ある患者さんは、私たちが伺うことで、「看護師が来るんだったら今日は起きようかな」「看護師が来る日だけは頑張ってシャワーしようかな」など、良い方向に持っていくことができました。
ほとんどの患者さん達は精神的なエネルギーが切れていて、やりたくてもやれないだけなので、私たちが行くだけで改善する方がみえます。
特にシャワーや入浴に関しては行う工程が多いため、エネルギーを多く必要とします。休息などで精神的なエネルギーがよく溜まっていないと、お一人ではなかなか難しいことが多いのでエネルギーをできるだけ充電してもらえるように最初はこちら主体でサポートします。
◆家事能力、社会技能等の獲得
体を動かすエネルギ―が少ないために、ごみ出し、洗濯、掃除などができない方のサポートをします。また、相談員さんを紹介したりして、就労のサポートを行ったりもしています。
具体的には、訪問時に一緒にゴミをまとめて一緒に捨てたり、声掛けをしたり。洗濯や掃除を部分的に一緒に行ったりします。本人に変わって全て家事を行うことはしません。今までゴミが捨てられなかった患者さんがみえましたが、捨てられることができるようになりました。
エネルギーが溜まってくると、仕事をしたいと言われる方もみえ、就労継続支援事業所を間接的に紹介することもあります。
◆対人関係の改善(家族含む)
患者さんは家族との付き合い方に苦しんでみえる方も多いです。言いたいことが言えなかったり、家族から「こうするべきだ」とか、「もっとちゃんとしなければいけない」などの言葉に苦しんでいる方が非常に多い印象です。
この「~するべき」という考え方は多くの患者本人も考えており、自身を苦しめてみえます。
具体的に私たちが行うことは、患者さんが言えないことを家族に伝えたり、家族から本人への接し方、目標をどう考えるか等についてお話しします。
ある20代女性の方は父親から「仕事をきちんとしなければいけない」「もっとちゃんとしなければいけない」など何年も毎日のように言われていて、自信がなくなり心のエネルギーがとても小さくなって自分の殻に閉じこもっていました。このケースでは、まず父親に対してサポートをすることとし、考え方のクセを一緒に考えていきました。
また、親の愛情をうまく受け取れずに成長してしまい、生き方に苦しんでいる方もみえました。その方には訪問看護師が親代わりに「気軽に連絡をしてくださいね」などお話しし、相談を受けたり助言をしています。余談ですが、この「気軽に連絡をしてくださいね」という言葉はとても安心感を与えることも多いようで、逆に相談が減ることをよく経験します。
◆社会資源活用の支援
例えば、患者さんは制度の情報を取得することが苦手な方が多いです。精神的に追い詰められている方が多いので、物事をゆっくり整理して考えられない方が多いことも原因の一つかもしれません。色々な行政制度は申請主義が多いため、患者さんは「どのような制度があるのか」さえ知りません。
医療費でいうと、自治体によっては健康保険の自己負担金がなくなるところもあるため、正当に申請できそうであれば、情報提供します。
また、行政的な堅いイメージのある場所が苦手な方も多いため、私たちで代理申請を行うことも多くあります。(パニック発作を起こしてしまう方もみえます)
◆薬物療法継続への支援
飲み忘れはもちろん、内服拒否や過量内服などの問題があります。
例えば、過量内服をしたくなる方には、本人と相談の上で数日分ずつお渡ししたり、ポストインしたりもしています。大体の方は、過量内服をしたくてしているわけではありません。正直に【本人のことを心配していること】【過量内服をやめるためにはどうすればいいだろう】など、きちんと話し合ってお互い納得の上で方法を決めます。多くの方は決して死にたくて沢山飲んだりするわけではなく、辛いこと(眠れない、不安が強い等)から離れたくて飲んでみえることが多いです。
きちんと話し合うことはとても大事で、お互いの信頼関係に繋がります。
◆身体合併症の発症・悪化の防止
体調変化を訴えることが難しい方や、体調変化を感じていても病院に行かない方がみえます。
なるべく早期に異常を発見し、受診に繋げます。
このコロナ禍でのケースですと、新型コロナ感染症を疑う発熱や咽頭痛があったが病院に行かない、というケースがありました。医療機関や相談員さんとのやりとりを行い、受診をしていただくケースがありました。
まとめ
精神科訪問看護というサービスはとても範囲が広いものであり、可能性のあるものと感じています。ただ、残念ながら全ての訪問看護事業所が行っているものではありません。そのため地域によっては受け皿が少なく、困ってみえる患者さんも多くみえると思っています。また、利用の仕方がわからず依頼がしにくいという声も聞きます。
色々な方に少しでも精神科訪問看護というものを理解いただき、受け皿や依頼のハードルが低くなればと感じます。
患者さんの多くは自分に自信が持てず、苦しんでいる方がとても多くみえます。【悩んでも解決しないことで悩んでいる】ところを見ると胸が苦しくなります。
この内容が最終的に患者さんの利益になれば幸いですし、私たち提供側もやりがいがあり、満足感につながるのではと思います。