健気に生きている子どもたち
日進市教育委員会
スクールソーシャルワーカー・スーパーバイザー
早川 真理
子どもたちは学校でさまざまな姿を見せます。その姿から、この子は何か問題を抱えているのではないか、悩んでいるのではないか、と先生が思われた時、場合によってスクールソーシャルワーカーに相談が入ります。相談されたスクールソーシャルワーカーは、子どもの情報を先生方から集め、必要があれば、子どもの話を聴いたり、保護者の話を聞いたりして、何が起きているのかアセスメント(見たて)をします。そして、先生方と一緒に、その子どもを支援するための手立てを考えていきます。
不登校の相談はよくありますが、その背景要因は多様で複雑です。A男のケースでは、不登校の背景に親の精神疾患がありました。母が死にたいとつぶやくようになり、A男は、自分が学校に行っている間に母が死んでしまうのではないか、と心配で来られなくなっていました。B子の場合は、日によって気分の変化が大きい親の精神状態の影響を受け、B子自身も精神的に不安定になってしまい、学校に来たり、来なかったりになってしまいました。いずれのケースも担任が電話してもつながらなくなり、スクールソーシャルワーカーも一緒に家庭訪問をして、放置できない状況であることがわかりました。親の精神疾患は子どもへの影響が大きく、多機関連携による家庭支援が必要になります。
親のメンタルヘルスの問題がない場合、不登校の子どもたちがよく口にするのが「学校がこわい」ということばです。友人関係での傷つき、先生の怒鳴る指導の怖さ、教室という空間そのものへの恐怖、不安、学習への不安等々が考えられますが、共通している感覚は不安だといえます。その不安がどこから来ているのか言葉にできる子は多くはありません。おそらく積み重なった不快な体験からきているもので、言語化するのが難しいのだろうと推察します。教室に入れず、別室登校をしている子どももいれば、学校に来られず、適応指導教室に通っている子どももいます。別室登校や適応指導教室は学校の教室に戻ることが前提となっており、先生方の対応によっては子どもが苦しくなってしまうことがあります。そのどちらにも通えない子どもももちろんいます。
不登校という事象は学校や保護者が試されていると考えられます。子どもの力を信じて待てるかどうかを試されます。子どもががんばる姿を見せると、先生や保護者はすぐに次のステップに行くよう働きかけたくなります。もっと子どもの気持ちを聴き、子どもの自己決定を尊重し、応援すれば、子どもは自らの力で歩き出せるのに、待てずに働きかけ、子どもを傷つけてしまうことがあります。
リストカットを繰り返すC子の場合、先生方とアセスメントをする中で、複数の先生から「見て、見て!」と言っている気がするという所感が出ました。母と面談をすると、母はこうなってほしいという子どもの姿をC子に求め、そうなるように、勉強やおけいこ事に励むよう、C子の生活をコントロールしていました。一方、C子は母の思いに答えるため、がんばってきましたが苦しくなっていました。「もうがんばれない、どうしたらいいの、私の気持ちをわかって」と思っていましたが、それを言葉にできませんでした。親が愛情と思ってやっていることが、子どもを苦しめてしまうことがままあります。親の価値観を子どもに押しつけるのではなく、子どもの主体性を尊重し、子どもの声に耳を傾けてほしいと願います。
授業に集中できない、教室を飛び出す、思い通りにならないと暴れるというケースでは、発達障がい、愛着障がい、虐待を念頭にアセスメントをします。発達障がいの場合、子ども個人の問題と考えがちですが、環境との関係性が問題行動につながっていると考えられます。子どもの特性を理解し、それに適した環境を整えれば問題行動が減少することはよくあります。D男のケースでは、1,2年次は大きな問題行動はなく、3年次になり、大暴れをするようになりました。1,2年次の担任は、D男の席をすぐ声のかけられる教卓近くに置き、折に触れ声をかけ、注意を引きながら授業を行い、授業後もイライラした気持ちを話すD男につきあっていました。3年次の担任は、年度初めにD男の態度を大声で頭ごなしに注意したことがあり、それ以来D男は担任に反抗的になり、クラスであばれるようになりました。担任は試行錯誤をしながらD男に対応しましたが、事態は改善せず、複数の先生が教室に入ることになりました。担任との相互作用がD男の行動にあらわれていたと考えられます。愛着の問題は親の協力が不可欠で、学校だけで解決できることではありません。ですが、子どもの承認欲求を満たす関わりを先生方が協力して実行することで、学校での問題行動が減少することもあります。虐待の見守りケースもそうですが、家庭での安心・安全が得られない子どもたちにとって、気持ちに寄り添ってくれる先生がいる学校は救いの場になります。
さまざまなケースと関わる中で、つくづく思うのは「子どもは与えられた環境の中で一生懸命健気に生きている」ということです。家庭環境が過酷であっても、親に「No」といえなくても、理解してくれない先生に心ない言葉をかけられても、健気に生きようとしている子どもたちの姿を見てきました。子どもが安心して成長発達できる環境を整えること、すなわち子どもの権利を保障することは大人の責務だと思っています。一日の長い時間を過ごす学校を、子どもたちが安心して成長発達できる環境にするために、微力ですが尽くしていきたいと思います。
(附)新型コロナウイルスの新たなる変異株オミクロン株の出現で、感染拡大への懸念が高まっていますが、コロナ禍の子どもへの影響については、大阪府立大学山野則子研究室が「コロナ禍における子どもへの影響と支援方策のための横断的研究」(2020年度厚生労働科学特別研究事業)を行い、報告書を公表しています。
http://www.human.osakafu-u.ac.jp/ssw-opu/ (子どもの貧困・コロナ調査)