少子化とコロナによる急激な社会変化の中でも 助産師はかわらず女性と子どもの味方
公益社団法人愛知県助産師会 理事
祝 由香里(ほうり ゆかり)
当会は昭和2(1927)年、日本産婆会愛知県支部として設立され、昭和30(1955)年に社団法人愛知県助産婦会、平成25(2013)年に現在の公益社団法人愛知県助産師会となった。産婆、助産婦、助産師と呼び名は変わったが、常に出産を通じ家族や地域社会に密着して活動してきた、女性だけで構成された歴史ある団体である。当会の会員は令和2(2020)年度末時点で527名、愛知県内の助産師は平成30(2018)年調査で2241名とあり、県の助産師の約23%が当会に所属している。近年、助産師の高齢化により出産できる助産院の減少が見られ、県全体の0.5%ほどの出産が21か所の助産院で行われている。しかし、コロナにより病院での家族立ち合いができない、妊婦健診の同伴もできない、マタニティ教室が開催されないなどの制約がある中で、助産院での出産も見直されてきており、数はまだ出ていないが助産院での出産が増えている実感もある。そして、新たに出産開業をする助産師も増えてきている。
2020年の全国の出生数は過去最低の87万2683人、合計特殊出生率は1.36であり、近年の人口置換水準の2.06を下回ってかなりの年数がたつ。このことは、現在出産する女性たちが妊娠するまでに兄弟従妹の妊娠や子育てを見る機会を減らし、ロールモデルがなくなっている。そのため、幼児期から妊娠や出産についての性教育を必要とし、学問として妊娠出産、育児を学ばざるを得ない。女性の社会的役割も変化する中で、出産育児を見据えた人生設計と準備がどの女性もできるわけではなく、妊娠したとなって初めて困惑することとなる。一人一人への手厚い教育と妊娠期~出産、育児期の切れ目ない継続した寄り添いと支援がすべての女性や家族に必要となり、少子化であっても時間もお金も減らすことはできず、社会的重要性が増している。当会でも、ここ数年で急激に各所より性教育、健康相談、にんしんSOS、マタニティ講座、産後の訪問等の依頼や相談が増えている。出産を行わないが開業届を出す、いわゆる保健指導開業助産院は年々増えており、このような社会ニーズにこたえたい、学びたいと入会する助産師も増えている。
2020年3月に最初の緊急事態宣言が発令され、コロナは医療現場の体制を大きく変化させた。3月は家族の進学就職・転勤など変化のある時期でもあり、会員の多くは、母や妻としての役割と、医療職である自分は感染をしてもさせてもいけないという緊張を持ちながら仕事や家庭生活を送った。そして、人と距離を置かねばならない環境で出産や子育てをしていく母子の心身への負担をひどく心配もした。このように助産師は、出産の現場や子育て中の母子のそばで、社会と医療と母子の今を常に肌で感じている。
当時、多くの団体は事業をストップし身動きが取れなかったが、当会は理事会を延期することなくすぐオンライン会議に切り替え、会の動きを止めなかった。コロナは会員の思いを収束し、団結し、発揮する機会となった。
まず、コロナの影響で産院や市町村のマタニティ教室が開催されなくなっていたことを受け、すぐに4月理事会で「オンラインマタニティサロン」の開催を決定し、その月末には活動を開始、今も継続して行っている。
また、2020年6月に西尾市の公衆トイレで産んだ赤ちゃんの遺棄事件が報道された。このこともあり8月理事会で「にんしんSOS事業」を決定、その後6か月間、このような予期せぬ妊娠をした女性を支援するために、時に連日のように何時間も夜に会議と準備を重ねた。こうして、関係機関と連携し、相談員の自宅で相談を受け、同行支援や短期居場所提供の体制をとる「にんしんSOS事業」を2021年2月より新たに開始した。
これら二つの事業の準備検討の呼びかけに多くの会員が参加しており、このような当会会員の熱き思いと行動力を自慢したい。だが、これらの事業運営は一部助成金を獲得はしたが、先輩から受け継いだ会費備蓄を切り崩しながら行っており、会の存続が危うくなっている。そのため寄付を募ることも新たにはじめた。
現在、助産師の多くは病院勤務者である。一方で、助産師として地域を知り、多様な家庭環境と成育歴に思いを寄せ、現在の心身の健康状態に目を向ける。妊娠中の体や子育てが心地よいものとなるよう、共に考え支援する。これらは簡単にできることではない。発達障害や精神疾患を持つ方だけでなく、今は様々な個性があり、安全な出産や子育ての方法を伝え、家族関係の再構築への支援をしていくためには、いくつもの対処法や智恵が必要となる。
もともと助産師は、産婦を中心にその家族全体を個別に柔軟に支援してきた職種。当会にはそんな助産師の先輩にあふれ、これからも会として多様な活動をできる場と教育を提供していくこととなる。こうして助産師は、先輩からノウハウを引きつぎ、また新たに作り出し、どんな時代も女性と子どもの味方として、また未来に続いていくのである。
追記:当会への寄付はホームページより申込ができます。どうぞご支援よろしくお願いします。
公益社団法人 愛知県助産師会ホームページ
https://aichi-josanshi.jimdofree.com/