R3 こころの健康コラム(その1)を掲載しました

断酒会発足60年以来の未曾有な状況体験中

 ~コロナ禍で運が悪かった仲間を一人でもださないために~

            特定非営利活動法人愛知県断酒連合会

                  理事長  林  藤孝

 令和2年全国に一回目の緊急事態宣言が発令される前から、我々断酒会が大切にしてきた“集まること”が、日常的に不可能な状況となりました。断酒継続・回復の生命線である断酒例会(体験談共有の場)の会場確保が困難なこと、また感染防止のための行動規範が社会に浸透したことで、命を守るための断酒例会への参加行動が、自分自身・家族や周りの人たちの命を守るための行動自粛とのせめぎ合いとなり、結果として断酒例会への参加を自粛する会員家族もみられました。中部ブロック大会・地域断酒会での結成記念大会・一泊研修会も、中止を余儀なくされました。例会の開催を除き、このような断酒会行事開催断念の状況は、今も続いています。

 令和2年3月以降3か月の間、会場の確保ができず、例会の開催が愛知県下27各断酒会で不可能となり、会員の断酒継続の危機や、アルコール治療を終え退院した仲間を受け入れる方法が皆無に近く、入会の意思確認や断酒のスタートもおぼつかない状況となりました。断酒会が発足して60年以来の未曾有の危機的状況でまったく先行きが不透明な中、5月14日の政府見解に、県下感染状況に応じた緩和状況を見据え、会場が確保できることに期待して、我々の活動は決して「不要不急な行動」ではないとの思いで一杯でありました。微力ながら断酒会の会員家族から感染者を出さないことが市区町村の自粛の緩和に寄与することとなり、結果的に例会場の利用再開につながる道と信じ、会員相互による電話による声掛けや、メールなどによる仲間意識を繋ぎとめることに努めました。

 閉塞感一杯の危機的な状況ではありましたが、所有している断酒会館(名古屋市南区)において、限られてはいますが緊急避難的な断酒例会を、極力三密を避けた条件下で三か月間、毎夜開催しました。また戸外で人数をしぼって時間をわけ、資料配付・会員意識を担保する会費を徴収する集まりを開いたり、地域断酒会の知恵を絞り、仲間の断酒継続を守る取り組みも実践しました。自粛緩和を待つのみでなく、Zoomを利用したWEB例会を主宰する積極的な動きも見られるようになりました。一方では不安を訴える入会間もない会員家族の声、例会の開催もできないのに会費を払うことに抵抗感を訴える声、会員であることの必要性に疑問を呈する声が聞こえてきました。ただ耐えて待つだけでなく、断酒例会がないことによる体験談の渇望解消になればと、体験談の出前、具体的には全国大会・ブロック大会での記念誌掲載の体験談や、各県で発行している機関紙掲載の体験談をコピーした小冊子を作成し、会員に配付するといったことも実施しました。一義的には対外的啓発が目的のホームページではありますが、この時期に限り、会員家族を守るために、治療を終えた仲間に希望の光を見てもらえるよう、トップページに体験談を掲載することなど、内向きに掲載内容を変更することも実施しました。

 何とかこの状況を凌ごうと仲間同士声を掛け合うなか、令和2年6月に一回目の宣言が解除されて以降は、今現在(令和3年9月)も、断酒例会の会場確保が全く不可能な断酒会はなくなり、断酒例会を継続できています。どこの会も解除後の最初の断酒例会では、集うことの大切さ、空気の震える匂いのあるリアルな断酒例会のありがたさを、大半の会員家族が痛感・再認識いたしました。

 感染状況の上がり下がりする波のなか、令和2年7月には、二年度に亘り準備を進めてきた「第57回全国(愛知)大会」の中止を断腸の思いで決断することとなりました。全国から仲間が集う全国大会の開催可否に関わる意見対立や運営に携わる会員家族と、それぞれの事情により携わることに難色を示す会員家族との間に分断が起きていることが、中止の判断をせざるを得ない理由でした。会員家族の絆の再確認、新たな絆の構築を目的の一つに掲げていた大会開催が、会員家族の溝を深めることになることを危惧し、一刻も早く分断の溝を修復してほしい一心での決断となりました。それ以降、機会をとらえ、会員家族相互がそれぞれの行動を尊重しあい認め許し受け入れあえる仲間であり続けることを、会員家族みんなで確認しあっています。

 昨年の5月以降、オンラインを利用した断酒例会(ほぼZoomアプリを利用)が全国各地で開催されています。会場の確保も必要なく、感染予防には適した断酒例会の新たな試みが急速にすすんでいます。だだ、オンライン利用ができる者、できない者の分断に繋がらないようにしなければならないと思っています。断酒会の行事に参加できない仲間ができてしまう方法は厳禁であろうという思いがあります。体験談を共有することだけが断酒例会ではなく、会場を予約する仲間・会場設営準備する仲間・片付けをする仲間が皆のために役割を果たすことで動いてくれる仲間の断酒継続の励みとなり、例会の前後や休憩の雑談が仲間の絆を育み、例会に出かける準備・行動など含めた全てのものがあって例会の効能であると思っています。しかしながら、いつまた生命線である断酒例会がリアルで開催できなくなるかは全くもって不透明である以上、オンライン利用の断酒例会の開催も、皆が参加できるようにアプローチをすすめていかなければなりません。通常10年15年で進行していく変革が、ここ1~2年で急速に変わっています。高齢化が叫ばれる断酒会の構成であります。追従できない会員家族が大半であることを考えあわせ、オンライン利用の行事の定期的な開催を複数の会員家族が集まり実施することで、できない会員家族にオンライン利用に慣れてもらう努力を続けていきたいと考えています。

 断酒会での断酒継続とその目的としての回復には、仲間の輪からはみ出ず離れずが鉄則であります。変わらなければならないものは勇気をもって変え、守るべきは次に伝えるべく守る信念を持ち続けられる断酒会であるよう、いま正に少し前の自分や家族のように、酒に苦しみ悩んでいる仲間が繋がれるよう、コロナ禍だから運が悪く繋がれなかった仲間が出ないよう、心して会員家族共々行動実践してゆきます。

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