R2 こころの健康コラム(その3)を掲載しました

新型コロナウイルス感染拡大の影響下における就労移行支援の取り組みについて

―LITALICOワークスの活動を中心に―

就労移行支援事業所 LITALICOワークス

名古屋駅南センター 篠田 瑛子

李  維悦

尾張一宮センター  山田 幹大

名古屋駅前センター 馬場胡々路

1. はじめに

①     新型コロナウイルス感染拡大についての動向

2020年1月に新型コロナウイルスが確認されてから、約11カ月が過ぎた。わが国でも、2月中旬から徐々に感染拡大が確認され、臨時休校の要請を皮切りに、さまざまな変化が見られた。愛知県でも、4月16日に緊急事態宣言の対象となったが、それ以前から外出や集会の自粛、不特定多数が接触する状況を回避することなどの対策が取られた。今回は、そのような状況下で、通所型の日中活動支援施設である就労移行支援事業所がどのような活動を行ったかを報告したい。

②     就労移行支援事業所LITALICOワークスについて

就労移行支援事業所LITALICOワークス(以下、LITALICOワークス)は、株式会社LITALICOが運営する就労移行支援事業所である。全国に82事業所、愛知県下に11事業所(名古屋市9事業所、その他2事業所)を展開している。通常は、9時に開所し、障害のある利用者が各々の希望する就労に向けて、個別訓練や講座、企業体験実習、企業見学などに取り組んでいる。また、ハローワークをはじめとする関係機関とも連携し、就職活動の支援を行っている。加えて定着支援事業所も併設し、月1回の企業訪問を基本とする、職場定着支援も提供している。

③     新型コロナウイルスに対する運営上の対策

LITALICOワークスは、新型コロナウイルス感染拡大が懸念され始めた2月末より、徐々に運営上の対策を開始した。具体的には、①開所時間を10時に変更およびそれに伴う利用者の時差通所、②スタッフの時差通勤、③使用機器および事業所の消毒の3点である。また、緊急事態宣言後の4月からは、①利用者の利用時間を調整し、午前・午後の通所人数を10人以下に設定、②在宅利用の開始を行った。

④     就労移行支援事業に対する影響

今回の新型コロナウイルス感染拡大は、就労移行支援の在り方などに様々な影響が見られた。1つ目は、利用者の通所に関する不安と在宅支援の開始である。2つ目は、企業の採用活動の減少であり、3つ目は集合型のイベントの自粛である。今回は、様々な制限下で実際に実施した支援等に関して、報告をする。

 

2.在宅訓練

LITALICOワークスでは、コロナウイルス感染に対する不安から、利用者本人もしくはその家族が自宅待機を希望するケースが増加した。また、自治体が在宅訓練を認めたこともあり、利用者全員に利用方法に関する希望の確認を行った。そのうえで、在宅訓練を希望した利用者には、通所時に受講できるプログラムの動画(DVDもしくはYouTube)の提供、パソコンや関連するテキストおよび作業訓練器具の貸し出しなどを実施した。在宅訓練時は、開始および終了時の電話面談やオンラインでの面談等も実施した。

また、通常の在宅訓練に加え、在宅訓練で孤独感を覚える利用者のために、「家にいても”つながり”や”居場所”を届けられないか?」という思いからオンラインでの特別プログラム提供を行った。提供側のスタッフはメインでプログラムを実施するスタッフとZoom管理をするスタッフの2名体制とした。Zoomにはチャットの機能があり、それを利用することで、在宅で受講している利用者も質問やコメント、時にはほかの利用者と会話するなど、積極的に参加することができていた。先述したプログラム動画とは違い、他の利用者と同時に参加できる環境を提供したことで、双方ともキャッチボールができるようにした。

加えて、遠隔でも参加できるという手軽さから、現在の利用者のみならず、就労中の者も参加することができ、コロナ禍で様々な不安を抱える当事者たちにとって、より広く支援が提供できたのではないか、と考えられた。

今回、在宅支援を提供したことで、支援の手法は対面だけではなく、様々な可能性があると感じられた。自宅からでも、これだけ積極的に参加でき、居場所になり得、多くの人がつながれるということは、我々支援者は、この社会に存在する、家から出られず孤独に生きていくしかない環境に置かれている大勢の当事者に対して、もっと多くの支援を提供できるのではないだろうか。

「こんな社会の変え方もあるんだ」そう思わせてくれた施策であった。

【画像:オンラインプログラムの案内】

 

3.就労支援および定着支援

就労移行支援事業は、障害のある方の就労と安定した職場定着を目標に支援を行っている。しかし、2020年のコロナ禍の影響で企業の採用活動は大幅に減少した。愛知県でも2019年12月の有効求人倍率は1.82%だったのに対し、2020年に入ってから徐々に下降し、10月は1.2%を記録した。この傾向は障害者求人でも同様に見られた。

また、障害者の就労支援において、応募を検討している職場の見学や業務の体験を通してマッチングをはかれることは重要なポイントである。しかし、その中でコロナ禍では企業見学や業務の体験を行う機会が減り、就職活動の機会自体も収縮した。

そこでLITALICOワークスでは、オンラインでの企業説明会などを実施し、利用者のモチベーション維持や不安の軽減等に尽力した。また、在宅ワークが増える中で、在宅での採用を企業に提案するなど、就職の機会を創出することに力を入れた。

さらに、企業の採用面接もオンラインで実施するケースが増えたことを受け、オンライン模擬面接会を実施した。事業所間をオンラインでつなぎ、実際の面接を模して、他事業所のスタッフが面接官役を行った。通常の対面での面接とは違うビジネスマナーや、慣れないオンラインという状況に戸惑う利用者も多かったが、実勢に近い形での模擬面接は概ね好評であった。

加えて、就労中の障害者に対する職場定着支援でも、月1回の対面支援が実施できないケースが増加した。自宅待機やテレワーク勤務になったことで、他者と接する機会が減った当事者も多く、支援担当者との電話面談を通して、様々な悩みを相談していただいた。一方テレワークが進んだことにより、より自身に合った環境で業務を行うことが可能となったケースもあり、働き方の幅が広がるという意味では良い面もあった。

社会的な変化が急な状況だからこそ、就労支援の役割としては、様々なリソースを活用しながら、変化に対応するためのサポートを行う柔軟性が求められていると再認識させられた。

 

4.オンラインシステムを活用したイベントの開催

LITALICOワークスでは、利用者同士のコミュニケーション等を目的として、これまでさまざまな集合型イベントを開催してきた。その中でも特に利用者間の交流を目的としているイベントが、「リタフェス」である。2018年より年1回実施しており、毎年100名ほどの利用者が参加している。しかし、今年度はコロナ禍の影響があり、集合型のイベントは全面的に自粛となった。

そこで今年度は、オンラインでのコミュニケーションを目的にしたイベント「リタフェスオンライン2020」を実施した。

今回のコンセプトは「オンライン」「フェス」「青春」とし、自宅、もしくは事業所での参加という形式となった。内容としては、東京本社に中継を繋いでの企業見学ツアー、参加型のクイズ大会、日々取り組んでいる訓練をリレー形式にした事業所対抗競技、マンガや音楽など10個のテーマで自身の興味関心を語れる「好きなことミーティング」などとなっており、選ぶ楽しさ、一体感、協力、自己発信、勝敗、応援というテーマで企画した。今年度の参加者は114名と、例年通りであった。また、オンラインという形式であったので、OBOGも参加した。

【画像:リタフェスオンライン2020当日タイムスケジュール】

 

参加者からは、「同じ趣味の人と話せたし、企業見学として本社の様子や現場の声を聴くことができ満足」「コロナの影響で今後オンラインの機会が増えると思うので、オンラインでの参加はいい経験になった」といった感想があり、全体の満足度は高かった。

一方、音質や画質、ハウリングなどオンライン特有の課題もみつかった。参加者にはパソコン接続のマニュアルを準備し、事前に接続の練習をするなど個別に準備を進める工夫を行うことで軽減をはかった。

【画像:個別訓練リレーイメージ】

 

今後、オンラインを活用する機会は日常においても増えていくことが想定される中で、こうしたサービスの提供の方法は、新しい可能性を感じられるものであった。現場での日々の支援と合わせて、特別感の演出やオンラインに触れるきっかけの提供が現場の職員にも求められていると感じている。

 

5.まとめ

今回は、就労移行支援事業におけるコロナ禍での取り組みについて報告した。新型コロナウイルス感染拡大により、社会全体が影響を受ける中で、LITALICOワークスでは手探りながらも、様々な支援を実施した。利用者は社会が大きく変化していくことや、自身の健康や就労についてなど、実に様々な不安を訴えていた。支援に従事するスタッフは、そのようなメンバーを前に、できる支援を模索する毎日であった。

特に在宅支援に関しては、スタッフの約7割が支援および訓練の提供という面で困難さを覚えており、対面ではない支援に対しての経験のなさが影響しているように思われた。また、スタッフ自身も在宅勤務になるケースもあり、そういった面での影響も見受けられた。反面、在宅支援の継続に関しては、中止したほうがいいと返答したスタッフは1割程度となり、残りは「継続」もしくは「どちらでもない」とのことであった。在宅支援という新しい形式に可能性を見出しているスタッフも多く、緊急事態宣言から9カ月を経て、徐々に「支援を提供する」ことから、「新しいことに挑戦する」ことも可能になったようである。

LITALICOワークスをはじめ、就労移行支援は障害当事者の“働きたい”を叶えるために支援を行う。今回のコロナ禍で就労移行支援事業は多くのネガティブな影響も受けたが、新しい支援や新しい働き方を見出すことができたともいえよう。

 

2020.12.16

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